パンフォーカス

「パンフォーカス」とは画面内にあるすべてのものにピントがあっている状態のこと。

黒澤明の映画はだいたいパンフォーカス。
ふつう、カメラはピントの合っている以外の部分はボカしてしまう。
すべてにピントを合わせるには絞りの数値を上げる。
f4...f8...f11。
そうすると光の束が強固になり、シャープな画作りをすることができる。
黒澤明は、役者の額に汗が浮かぶほどガンガンに照明を当て、絞り数値の大きい画を撮影したらしい。

パンフォーカスの利点とは何か。
一言で言ってしまえば、ワンカットで状況を説明できるということに尽きる。
場面設定、役者の顔や服装、重要な小道具など、わざわざカットを変えなくともワンショットで見せてしまえる。
また、映画をより現実的なものに見せる効果もある。

今でこそ驚きは少ないが、映画創世記にあっては、パンフォーカスは画期的な出来事だった。

オーソン・ウェルズの『市民ケーン』はそれをやってのけた最初の作品だ。
もっとも、ここに登場するパンフォーカスは、ピントの合っている画をそれぞれ重ね合わせた、合成映像だったのだが。

DSLRが普及し、ボケボケの映像ばかりが巷に溢れ返っているが、レンズが明るく、交換できる利点は実はこのパンフオーカスにあるとも思う。